[10]05.ファンブルかインコンプリートか問題(タック・ルールの改正)
QBがパス・プレーのときにサックされてボールを落とした。
さて、どうなるでしょう?
サック気持ちいい! ファンブル!
パスしてたならインコンプリートっしょ!
そのときのQBの状態によるんじゃねえんすか?
うむ。カエルが正解。
QBが、今まさに投げようとしてるってときにボールを落としたら、それはインコンプリート。パス失敗なんだ。投げようとしたけど、手が滑ってコントロールが乱れたパスと同じものって扱われるわけね。
でも、パスを投げようとしてない段階、ボールを持ってレシーバーを探しているときなんかに落としたら、それはファンブルだよ。RBとかがボールを持って走ってるときと同じものとして扱われるわけだね。
んじゃー、「今まさに投げようとしてる」ってのは、どういうときなんだい!?
うむ。単純に言ってしまうと、フォワード・アクション、つまりボールを持った腕が前に動いているときは、「今まさに投げようとしてる」と判断される。
QBはパスを投げる前、レシーバーを探してるときには、だいたいこんな姿勢でボールを持ってるね。
すぐにパスが投げられるように、肩の近くで持っているんだね。サックされそうなときにはすぐに胸に抱え込めるっていう理由もある。
このときにサックされてボールを落としたら、それはファンブルになる。
ここまではわかりやすい。じゃあ、腕が動いてるときはどうなるのか、だね。
まず、パスを投げるときには勢いが必要だから、振りかぶらないといけない。
このときには、ボールは後ろに動いているから、フォワード・アクションではない。「今まさに投げようとしてる」とはみてもらえないんだ。
ここでサックされてボールを落としたら、やっぱりファンブル。まだボールがフォワード・アクションをはじめていないから。
だから、パスを投げるまでの動きが小さな、クイック・リリースができるQBのほうが良いって言われるんだね。
この瞬間からが、「今まさに投げようとしてる」状態になるんだ。
これはもうフォワード・アクションなので、ここでボールを落としたら、それはインコンプリートってことになる。
なんだー、簡単じゃーん!
前に動き出した瞬間だけわかってれば、ファンブルかパス失敗か見分けられるんでしょー?
だがな小僧。
世の中にはな、パンプ・フェイクっていう厄介なものがあるんじゃよ。
なんぞそれ?
QBがパスを投げるふりをするやつだよー。
たとえばな、
こういうパス・パターンのプレーがあるだろ、
そこに、QBが手前のレシーバーに投げるふりをするんだよ。
そしたら、ディフェンスはそれに反応して、ボールが飛んできそうな赤丸のところに動いちゃうよなー。
そしたらよぉ、後ろのレシーバーがあくだろ?
そっちに投げたらいいんだよー。
ずりー! それずりー!
だますなって感じー!
まあそれも技だ。
ただ、ここで問題になるのは、パンプ・フェイクもフォワード・アクションであるってことだね。
パスを投げるふりをするってことは、
ファンブル!
それが違うんだ、インコンプリートなんだよ。
フォワード・アクションってのは、腕が前に動いてさえいればいいんだ。明らかにただのフェイクでも、腕の振り方にぜんぜん勢いがなくって、そのまま投げたら10ヤードくらいしか飛ばないだろって動きであっても、それはフォワード・アクションなんだ。
本当に投げる意思があるかないかに関わらず、腕が前に動いていれば、「今まさに投げようとしてる」状態として扱われるんだ。
んー、そうなんだ。
でもそんなに難しい? 見分けるのはできそうだよ?
だがな、ここでさらに問題の「タック・ルール」ってのがでてくるんじゃ。
パンプ・フェイクをした後ってのは、ボールを片手で持って、しかも下のほうにある。危険だよね、誰かにちょっとさわられただけで落としちゃいそう。だから、また両手で肩のところで持つ基本姿勢に戻らないといけない。
その間は、ボールと腕は体に引きつけられる方向に動くから、フォワード・アクションはしていない。
だけどもだがしかし!
その間は「今まさに投げようとしてる」状態に含まれるって、ルール上規定されてた時期があったんですね。
というか、2012年まではそうだった。
ファンブル!
今はファンブルだよ。正解。
「投げる意思が本当にあろうがなかろうが、フォワード・アクションをしている間にボールを落としたら、それはインコンプリートになる」
っていうルールの注釈として、2012年までは、
「パスを投げようとしたけど、やっぱり途中でやめて、再びボールを自分の体のほうに引き戻す(このアクションをタックっていう)間は、フォワード・アクションに含まれるものとする」
っていうのがあったんだよ。
だから、この間は、「今まさに投げようとしてる」状態ということになって、インコンプリートになっていた。
ずるいぞー!
ラインの苦労も考えろー!
まあね、すごく納得いかないモヤモヤした気持ちは残っちゃうんだけど、まあフェイクのふりして投げたっていいわけだし、投げる意思なんてのは審判には判断つかないから、あくまで動作を材料に判定しなきゃいけない。
だからルールとしてはこうなっちゃってたのは仕方ないかなとは思うんだけどね。
ただ、このルールはずっと曖昧なままで運用されてた感が強かったみたい。今のはファンブルだろーって、だいたいの人たちが感じたらファンブルになったりしてたんだろう。
しかし、そういう心情やら空気やらでなく、ルールをきちんと適用した審判が登場したんだ。しかも、すごく大きい試合の、すごく重要な場面で。
それがその後「タック・ルール・ゲーム」って呼ばれるようになった試合、2001年シーズンのAFCディビジョナル・プレーオフ、レイダース@ペイトリオッツ。4thクォーター、レイダースが3点リードしてて、残り時間から考えてペイトリオッツは最後の攻撃ってとき。
CBブリッツが決まって、QBがボールを落とした。
ファンブル。
レイダースがリカバーして勝負あり。
の、はずだったんだけど。ペイトリオッツがチャレンジして、レビューの結果、QBがパンプ・フェイクのあとタックしてるところだったっていうことで、インコンプリートの判定になっちゃったんだ。
それで攻撃が続いて、結局ペイトリオッツが勝っちゃった。
というわけで、
■どう見ても投げるつもりなんてないパンプ・フェイクだった。
■そもそもパンプ・フェイクにもなってないくらい小さい動きだった。
■しかもパンプ・フェイクは終わってた。
■タックも終わってたんじゃねーの?
などの、フォワード・アクションがないのに「今まさに投げようとしてる」って判断されたことに対する不満と、
■そんなルールがあるなんて知らなかったよ
■ルールがあるからっていまさら適用しなくてもいいだろ
■今年のレイダースはスーパーボウル確実ってくらい強かったのに。
■ベリチックとブレイディの態度が気に食わない。
■盗聴したくせに。
などなどなかば言いがかり的な不平も混ざり合って、かなり大きな反響を呼んだのでした。
そして、それからしばらくは、これがひとつの判例みたいになって運用されていたんだけど、2013年シーズンからルールが変わった。
フェイクしたとかどうとかは関係なく、腕が前に動いていればインコンプリート、腕が体の方に動いていればファンブル。
悲喜こもごもなタックルールです。
実際のところ、ビデオ判定がスムーズに使えるようになったから、それまでは現実的に判定の基準をつくるのが難しかったタックルール関連も判断できるようになったよ、っていうテクノロジーの勝利みたいだね。
まあ、サックしたのが、ラインじゃなくって、CBなんだったら、どっちでもいいや
そういう問題だっけ…?
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